開発経緯その1

     Micro Hovercraft Laboratory


開発経緯その1



 発端は今から21年前、1999年の12月の年末に地元のホームセンターが処分品としてエンジンブロアーを\9,800と破格で売り出していたことです。このブロアーは浮上エンジンユニットに使用したマッカラー社製のSUPER STREAM Wです。本来はリーフブロアーとして落ち葉やごみを吹き飛ばしたり、吸い込んで掃除をするための道具であります。

 たまたま仕事納めの日にふらっと立ち寄ったところで見かけて購入しました。マッカラー社は日本ではチェーンソーが有名ですが、自作飛行機や軍用の無人機のエンジンにも使用されるアメリカの名門の小型エンジンのメーカーです。ブランド品(?)のエンジンがこんなに安く手に入るなんて(!!)と衝動買いをしたのです。(なおこのホームセンターは翌月に倒産してしまいました・・・。ちなみにマッカラーも倒産してスウェーデンのハスクバーナのブランドにされてしまいました。) 

 手に入れてからも本来の掃除用のブロアーとして使う気もなく、「背中にしょって自転車に乗れば風圧で走れるかな」くらいの思い付きしか考えていませんでした。私は子供のころよりモノづくりが好きで、同軸反転の電動ラジコンヘリコプター(1982年)や初期のスターリングエンジン(1985年)などいろいろ手がけたことがあります。人力飛行機に興味を持っていて少々研究したことがあり、低出力のパワーソースでも人が浮上できる乗り物が可能とは思っていました。

 とはいえそのままずーとほったらかしにしていましたが(約12年も!) 何がきっかけかは忘れましたが、ホバークラフトを作ろうと思い立ち、2011年に900o×900oのサイズで浮上実験機を製作しました。

実験機その1
 ベースの板と底面の板は間隔があり、ブロアーからの空気はそこを通りスカー
トを押し広げ、一部は底面の穴から出てくる構造になっています。

 テストではスカートを膨らませることはできても、地面との間に圧力を保つこ
とができず、エアクッションの効果がうまく発揮されませんでした。

 スカートの材質が糸入りの作業シートで柔軟性が少なく、地面との隙間が多か
ったこと、ブロアーの排気もチャンバー(座席兼用)を通り、べースと底板の隙間
の穴からでてくるために抵抗が大きく、圧力損失があったと考えます。

 この構造を多少大きくても見込みがないと考え、良い事例がないかネットで探してみました。http://cdn.makezine.com/make/wp_shovercraft.pdf

失敗した実験機を改造して、このタイプのスカートの性能を確認してみることにしました。
実験機その2
 ベースの板にビニールシートを張り付けて適当な穴をあけ、押え板を取り付け
ただけの簡単な構造です。(実験機その1を改造した手抜き工作です)

 あまり期待はしていなかったのですが予想以上にエアクッション効果が働き、
人が乗っても抵抗なく動きました。

 しかしベースの板厚が薄くて撓んでしまい、エアクッション効果が不安定でし
た。本体プレートの剛性が必要と思われます。

 ベースの形状は丸い方が良いようで→ http://makezine.com/2011/06/24/some-assembly-required-leaf-blower-hovercraft/
これはいける!! ということで試作機の製作をすすめました。

試作初号機
 推進ユニットのエンジンは自宅で使っていた揚水ポンプのものを外して製作しました。減速ギヤ部は自作です。(製作編をご覧ください)
 テストではそれなりにエアクッション効果が働き走行可能でしたが、操縦性・直進性が良くなかったことと本体構造を上下2枚の板を重ね合わせたとしたため機体重量が34.7kgになり、1人で取扱うのには重かったので、新しい機体を製作することにしました。
 本機の図面のデータはこちら→ MHL-01.pdf

試作弐号機Ver.1.0
 本体プレートを新規に製作し、推進・浮上エンジンユニットと操縦系統は初号機のものを外して利用しました。べニア/ポリスチレンフォームのコンポジット構造にしたため26.2kgと大幅に軽量化。しかしながらクッション面積を増やすため角ばった平面形にしたことで、角部のスカート下部が引っ掛かり、走行時の抵抗が大きくなり失敗しました。また浮上用エアを座席兼用のチャンバーからスカートに導入する方式にしたのも良くなかったと思われます。(実験機で失敗していたのですが・・・)
 本機の図面のデータはこちら→ MHL-02.pdf

試作弐号機Ver.2.0
 本体の前部を半円形状にカット、浮上エンジンユニットを反転してスカートに直接エアを導入するようにしました。後部はスカートの寸法を調整して引きずらないようにしました。結果として試作初号機と同じような外観になりましたが、軽量化して25.4kgになりました。
 走行テストではスムーズに走行可能でしたが、いったんスピンをすると回復するのが難しく、ラダーもエンジンを絞ると利きが悪くなり操縦性の改良が必要と考えました。写真はドリー(台車)に乗った状態で黒いベルト掛けが見えます。
 本機の図面のデータはこちら→ MHL-03.pdf

試作弐号機Ver.3.0
 操縦装置をラダー方式からファンを含む推進エンジンユニット全体を動かす、ベクタード・スラスト方式に変更しました。そのため推進力の100%を操縦作用に利用することができます。(ラダー方式は直進する気流を偏向させて操縦するため推進力の一部しか利用することができません)
 操縦性もそれなりに改善したと感じました。ラダーとフレームを無くしたことで軽量化も出来て24.0kgになりました。
 本機の図面のデータはこちら→ MHL-04.pdf

試作弐号機Ver.3.1
 ver.3.0から本体形状の変更です。後部のアールの大きさをR200からR300にしました。スカートの引きずり対策です。今まではスカートの寸法をこの部分だけ短くしていましたが、この機体では均等なふくらみになるようにしています。操縦性はあまり変化はありません。本体を削ったことで軽量化して23.8kgになりました。結局、本体の平面形状は初号機と同じようになってきました。
 本機の図面のデータはこちら→ MHL-05.pdf

試作弐号機Ver.3.2
 推進ユニットを変更しました。ver.3.1までは工業用扇風機の羽根をギヤで減速して使用しましたが、3.2ではラジコン用のプロペラを直結で使っています。「設計概要」と「製作その3」で詳細を説明しますが、逆ピッチのプロペラが見つかったこととギヤの耐久性に問題があり対策が必要になったためです。静止推力が向上したことにより走り出しが楽に感じます。金属製の羽根やギヤが無くなったことで軽量化になり21.8kgになりました。推進ユニットの変更以外はver.3.1と同じです。
 本機の図面のデータはこちら→ MHL-05-1.pdf






試作参号機Ver.1.0
 弐号機の改良が進み、ほぼ出尽くしたので、もっとお手軽なホバークラフトを作ってみたくなりました。速度や操縦性はある程度目をつぶって、気楽に遊べるようなものです。そのためシングルエンジンの立ち乗りタイプとしました。掴まり用のハンドルバーを折り畳み式にしたのがポイントです。ハンドルバーはイレクターパイプを組み合わせて製作しました。
全長を400o短くして1100oにしたので運搬・輸送が容易です。(軽自動車の後部でも乗るサイズです) 今回もブロアーに合わせたため機体色は赤になりました。安易ですがこれはこれでよろしいかと。
 試運転をしてみたところ、スカート内の圧力が上がらないためかバランスを取らないとうまくホバーしませんでした。  しかし問題は、前進しないことです。スカートに開けた穴から後方に排気していますが、効果がほとんどありません。→ 設計概要のページでも解説している通り推進のために必要なパワーは浮上よりも大きいのです。スカートからの分流ではいかにも足りませんでした。(分かってはいたけど、少しは動くかなーと思ったので、まず実行。対策は後から考えるというか、自分を追いつめる状況にして考えないと文字通り前に進みません。 言い訳だけはエラソーです。)

 仕方がないので坂を下って動かしましたが、なんとか自走できるように思案中です。

本機の図面のデータは→  MHL-11.pdf

←こちらの写真は上記や下記と異なり左側が前になります。

試作参号機Ver.2.0
 自走する推進力を得るためにノズルとスカートを変更しました。ノズルの解説は下記で行います。
スカートは上記の写真と異なりはみ出した部分が見られません。
そのことでわかるように、機体と同じ大きさになっています。従来の2枚のビニールシートをを熱溶着する構
造では無く、1枚でくるんでいます。
そのため浮上する高さが低くなりホバークラフトらしさと有効面積が少し減りましたが、底面がより平らで
スムーズな形状にふくらむため走行抵抗の低減に寄与するのではないかと考えました。また製作も簡単で
す。
 このスカートは上記の実験機その2で実施したことがあります。
 試運転ではまだ自走には至りません。改良の結果、わずかな下り坂で前進は可能になりました。
 推進力を増大するために今回製作したのがディストリビューションノズル(分配ノズル)です。ここでリフト用と推進用のエアを分岐します。T字ノズルの内部にデフレクターが有り、約1:1の割合で分流しています。スカートに穴を開けるより推進効果が出ましたが、残念ながら自走するために必要な推進力にはまだ少し足りないようです。
 スカートを変更したのは抵抗を少しでも減らすために行ったものです。推進力が小さいためにスカートの抵抗は極力小さくする必要があります。他の方法としてアスファルト面ではなくカラーコンクリートや塗装床面など平滑な面で走行すると良いのではと考えています。さしあたってシートを敷いて試運転してみようと思っています。
 シートの上で試運転をしてみました。わずかに前進するかなといった具合です。写真は自宅の車庫のコンクリート面にシートを敷いた状態です。この実験を行った感じではホールや体育館くらいの水平で平滑な床面であればある程度の自走が可能と思います。しかし実際にそんな場所で走らせることはできませんので、推進力を増大する方法を検討中です。別の推進ユニットを追加する必要があるかもしれません。シングルエンジンにするというのが最初の開発コンセプトの1つにあるのですが、現状では一般的な路面での走行はかなり難しいです。なお設計概要の頁に地面の傾斜と静止推力の関係を追記しましたので参考にしてください。

本機の図面のデータは→  MHL-12.pdf

試作参号機Ver.3.0
 自走する推進力を得るために電動ダクテッドファンユニットを追加しました。ハイブリッド化です。操縦はダクテッドファンユニットを左右に2つ取り付け、出力差動で行ないます。出力制御はコントローラーのボリュームのつまみを回すだけです。最近のブラシレスモーターのパワーは凄まじく、私がかつて電動ラジコンヘリコプターを開発していた頃(プロフィールの頁を参照)のブラシモーターとは桁違いの感覚でした(実際は〜5倍くらい)。それでもこの程度の電動ダクテッドファンユニットでは、かろうじて自走が可能なレベルです。電池に自動車用鉛バッテリーを使用したために、重量が増えてしまいました。(1個当たり約8sです)リチウムイオン電池を使用すれば軽量化になりますが、コストや取り扱いやすさも考えて、あえて使用しません。今回使用した自動車用バッテリーはインターネットの購入価格は2,670円でした。
本機の図面のデータは→  MHL-13.pdf

          



試作参号機Ver.4.0
 推進力を増加するためにダクテッドファンをプロペラに換装しました。ハンドルの折り畳み機構はそのままでプロペラユニットは可能な限り大きくしました。プロペラ直径が大きい方が、低速で多くの空気を押し出すことができるため小径のダクテッドファンよりも推進力が増加します。結果、Ver.3.0で1.1kgfだった静止推力が、このVer.4.0では2.4kgfと倍以上に増加しました。
 試運転では、左右のモーターの出力差動せずに体重移動で方向変更が可能でした。小回りは利きませんが、低速(時速数q)なのでなんとかなりました。(トップページの動画をご覧ください)
本機の図面のデータは→  MHL-14.pdf

          



試作参号機Ver.5.0
 Ver.4.0を完全電動化しました。浮上用のダクテッドファンはVer.3.0推進用のユニットを流用しました。それに伴い、浮上用エアのダクト位置を前側に移動しました。リフトエアは真下に向けて吹き出すため前側のリフトが強くなります。そのため前進時に前部が上がりスカートの抵抗が少ないようです。バッテリーを追加し、2個を並列にして合計3個のブラシレスモーターを駆動します。
 当初のコンセプトにこだわらずに操縦しやすい形態にするため、乗機姿勢を立ち乗りから座る方式に変更しました。立ち乗りは重心が高くなるためバランスを崩しやすいこと、完全電動化でリフト量が少なくなりスカートが引っ掛かりやすくなったことへの対策です。低速とはいえ膝を使った微妙な重心調整はいささか億劫なので座るようにしました。凡庸な外観になりましたが、始動や出力コントロールが容易な電動化と相まって、「お手軽なホバークラフト」としてのコンセプトは達成されたと思います。
本機の図面のデータは→  MHL-15.pdf

          




試作参号機Ver.5.1
 Ver.5.0を立ち乗りにしたものです。東京ビッグサイトで開催されたMaker Faire Tokyo 2017に出展するために改造しました。試乗してもらうのに都合が良いことと、見た目のインパクトもあるのではないかと考えました。折り畳みハンドルはVer.4.0のものです。
 イベント当日の体験試乗では、体重の軽い子供はうまく乗れていましたが、大人では重いことと重心の位置が高くなるため、バランスをとるのが難しくなるようです。ほんの数メートルの距離を走行するだけですが、それなりに盛況でした。

          


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