Micro Hovercraft Laboratory

設計概要



1.ホバークラフトとは

 ホバークラフト(Hovercraft)という言葉はイギリスのブリティシュ・ホバークラフト社の登録商標ですが、一般使用を認めているため広く使われています。本来はACV(Air Cushion Vehicle=エアークッションヴィークル)が正式名称とのことです。類義語としてGEM(Ground Effect Machine=地面効果を利用した機械)及びWIG(Wing In Ground effect=地面効果翼)という言葉がありますが、それらの関係ををまとめると
                           ACV(ホバークラフト)
        GEM(地面効果を利用した機械) 
                           WIG(地面効果翼機→リピッシュデルタ翼機、カスピ海の怪物など)

地面効果を簡単に言えば、地面が近くにあれば空気の圧力を支えやすく、少ないパワーで浮上することができるようになる現象です。
 この地面効果を有効に利用するために必要なものが「スカート」です。浮上エンジンユニットからの空気の圧力を溜めて、機体全体を浮上させて地面とのクリアランスを作ることと、地面の凹凸に追従して、スカート内の圧力を保つ機能があります。スカートは理論的には地面と接触していません。完全な平面上として計算すると本機は1.3o地面から離れていることになります。(下記※1参照) また日本では法規上ホバークラフトは船舶の分類(トップページ参照)ですが、工学上では扱う流体が水ではなく空気のため、航空機の分類になります。

 地面効果やスカートを説明する現象として、熱いみそ汁をいれたお椀がテーブルの上でスーと滑るのを目にしたことはないでしょうか。それはみそ汁の熱によってお椀の底の部分の高台の中の空気が膨張して圧力が高まります。水で濡れているとスカートのように圧力を保持してわずかに浮き上がり、ほんの少しのテーブルの傾斜によって滑るのです。まさしく小さなホバークラフトといえます。

2.動力
 ホバークラフトには原則として2つのエンジンを有します。浮上用と推進用です。1つのエンジンで共用する場合がありますが、走行しないと浮上しないためパワーに余裕がない低馬力の機体では、ほぼフルパワー状態となり低速での操作が困難です。そのため本機は独立したエンジンユニットを持っています。それぞれのエンジンの諸元を下記します(以下の諸元および数値は試作弐号機ver.3.1のものを使用しています)。

浮上エンジンユニット
推進エンジンユニット
名称 SUPER STREAM W
メーカー McCULLOCH(マッカラー)
形式 空冷2サイクル直立単気筒ガソリン
総排気量 21.2cc
空気送風量Q 11.3m3/min=0.19m3/s
空気流速V 224q/h=62.2m/s
インペラタイプ 遠心ファン
インペラ翼数 6枚
インペラ回転数 7000rpm
乾燥質量(実測値) 4.5kg




名称 ロビンエンジンEC025GR
メーカー 富士重工
形式 空冷2サイクル直立単気筒ガソリン
総排気量 24.5cc
連続定格出力/回転数 0.75PS/6000rpm
最大出力/回転数 1.2PS/7000rpm
最大トルク/回転数 0.122kgf-m/6000rpm
ファン直径 450o
ファン翼数 4枚
自作ギヤボックス
減速比
17T/60T=1/3.53
ファン/エンジン回転数 1983/7000rpm
乾燥質量 7.0kg

3.浮上力
 ここでは浮上エンジンユニットからの空気流速Vをもとに圧力Pを計算します。
ベルヌーイの定理から
    P=1/2ρV2 (ρ=0.125kgf・s2/m4:重力単位による空気密度)
    =1/2×0.125×(62.2)2
      =241.8(kgf/m2)

計算上は1平方メートル当たり240kg以上の重さを浮上させられることになります。しかしこの数値は大きすぎますね。本機の実際のクッション圧力は72.6kgf/m2です。
小型ホバークラフトのデータを見るとクッション圧力は30〜70kgf/m2です。このデータは主に軸流ファン形式のため、本機のように遠心ファンでは少し高めの100kgf/m2以下に設定します。
 クッション圧力が高いか送風量が小さいとスカートと地面との隙間が小さくなり、より平滑な面でしかエアクッション効果が働かなくなり、走行できる場所が限られてしまいます。

 このクッション圧力で機体の大きさ(クッション面積)を決めます。クッション圧力×クッション面積=浮上可能重量 となります。
本体の材料はベニヤ板や発泡スチレンボードなので3×6尺(910×1820oまたは900×1800o)以内の寸法に収めたいわけです。

 例としてクッション圧力を70kgf/m2と仮定して、機体30kg・操縦者の体重70kgの合計100kgを浮上させるためは1.4uのクッション面積が必要です。これですと機体の大きさは幅910o×全長1800oくらいの長円形状になります。(私は体重60kgですので全長を1500oにしました)

上記の計算値と実際の数値との違いについて
 ベルヌーイの式は速度を持った流体の運動エネルギーが圧力に変換されることを意味します。諸元の流速はブロアーの出口の数値でありスカート全体では低下します。実際相当に補正してみると流速は34.1m/sになります。

※1この数値から地面との隙間を計算すると、理論上のスカートと地面間隔=浮上空気送風量÷流速÷スカート接地周長=0.19÷34.1÷4.2=1.3×10-3m=1.3o

4.推進力
※以下は途中まで試作弐号機Ver.3.1までの工業用扇風機のファンを使用した場合で解説していますが、最新のVer.3.2ではプロペラ直結の推進ユニットに変更になりました。末尾にその解説がありますので、そちらをご参照ください。
 推進用のエンジンの出力は一般的に浮上用の 3〜7倍程度です。ホバークラフトのイメージは、浮上することに大きなパワーが必要と思われそうですが、実際は走行するための推進エンジンのパワーほうがはるかに大きいわけです。
 本機は免許や検査を受ける必要のない合計2馬力以下の小型の汎用エンジンを使用しています。推進用1.2PS/浮上用0.8PS=1.5倍です。そのため推進力が弱く、加速も悪くスピードが上がりません(〜20q/h)、傾斜があるとそちらに流されるため操縦が難しいです。車と違いタイヤという重さを支えるとともに進む向きを定めるものがありませんので、方向転換するとスピンしやすい性質があります。

 推力エンジンユニットのポイントはファンです。浮上エンジンユニットはブロアーをそのまま使用しているため手を加えていませんが、ここではファンを何にするか考えました。本格的なホバークラフトは専門メーカーのマルチウィングファンという多翼のファンを使用します。しかし1馬力程度のこのエンジンに適当なものを作るとしたらオーダーメイドになり、どれだけ高価になるかわかりません。

 エンジン模型飛行機用のプロペラを直結で使用することも考えましたが、ファンは大きいものをゆっくり回した方が効率が良いので、減速して回すことにしました。

 そこで目を付けたのが工業用扇風機のファンです。プラスチック製が多いですが金属製のものもあり、部品としての入手も可能です。


警告! 工業用扇風機のファンをこのように使用することは、明らかにメーカーの使用目的から逸脱しており、もし事故が起きても責任は本人のみが負うことになります。また当方も自己の責任において製作した結果を報告するだけで、一切の責任は負えませんので、ご理解・ご判断の上ご覧ください。


 工業用扇風機のファンを選択するにあたって検討したことは@ファン直径 A材質 B回転数(減速比)です。


@工業用扇風機はファンの直径が450oか500oが一般的です。ここでは製品のバリエーションが多く選択肢の広い450oから選びました。また扇風機用のファンガードが使えるので事故防止にも役立ちます。


Aプラスチックの場合ガソリンやオイルの付着で劣化や亀裂が考えられます。金属製は変形しても最悪ブレードの飛散という事態はないと考え、金属製(アルミ合金)のファンにしました。なおファンはホームセンターで一般向けに販売している扇風機本体含めて数千円程度の廉価品のファンは、たとえ金属製でも板厚が薄くて弱いため、過回転で使用することは非常に危険ですので絶対に使用しないでください。


B回転数は非常に重要なファクターです。低速すぎれば推進力が小さくなり、高速すぎてもファンの破壊につながり非常に危険です。また減速比も適正にしないとエンジンがファンを回し切れず、思った能力を出せません。


 下記に選択したファンの本来の扇風機での諸元を示します。100V電源なので50Hzと60Hzがありモーターの回転数が異なります。メーカーの仕様には記載されていませんでしたが、50Hzでは1400rpm、60Hzでは1650rpmと仮定しました。となれば1650rpmから安全率を見込んでいると思われるので√2=1.41倍の2333rpmくらいなら遠心力でブレードが吹き飛ぶことはないだろうと思いました。(それでも√2倍では遠心力は回転数の2乗に比例するのでブレードには2倍の力がかかります)


 ファンの回転数を2000rpmにするため減速します。そのための減速比は7000/2000=3.5となります。エンジンとファンの回転方向が逆のため減速機方法はギヤを使いました。実際のギヤ比は60T/17T=3.53です。

 減速ユニットを作るのが面倒だといってエンジンと工業扇風機のファンを直結しないでください。その場合はエンジン模型飛行機用のプロペラを直結にする方法をおすすめします。プロペラの取り付け方はエンジンにより異なりますが、アダプターとなる部品が必要です。高速で回転する部分ですので安易な工作では危険です。人が乗るものですから、ある程度の技術や知識ががないと自分がけがをするかもしれません、あるいは他の人をけがをさせてしまうかもしれません。十分気を付けて製作してください。


推力Tを計算します。運動量の式から、T=Q×V×ρ=4.1×7.8×0.125=4.0kgf

実測したところ静止推力で2.8kgfでした。
 静止推力は坂を上る際に必要な力と言えます。たとえば一般的な駐車場では排水のため1〜3%の勾配を付けてあるそうです。100メートルで1〜3メートル上る(下る)ことになります。角度でいえばθ=tan-1(勾配率)=0.57°〜1.72°になります。この勾配を上るのに必要な力は重さに対する分力ですので、総重量×sinθ=90kgf×(0.01〜0.03)=0.9〜2.7kgfとなります。(地面との摩擦はゼロとして)
 ということなので、この静止推力では3%以上の坂は上れないことになります。地面効果でわずかに浮いているとはいえ、飛行機と異なり地表の傾斜の影響を直接受けるためです。実際走行するとわずかな上り坂でも発進するのに苦労する場合があります。解決するには@推力の増加、またはA軽量化しかありません。





工業扇風機仕様

名称 SF-45MS-1VA
メーカー スイデン
電圧/周波数 100V 50/60Hz
消費電力 120/180 W
風量Q(50/60Hz) 強 215/245 m3/min (3.6/4.1m3/s)
中 195/180
弱 140/130
風速V(50/60Hz) 強 405/465 m/min (6.8/7.8m/s)
中 370/340
弱 310/255

プロペラ直結ユニットについて



 
 プロペラ直結にしたところ、静止推力が増加しました。2.8sf→3.5sfになりました。
回転数を実測したところ5220rpmでした。プロペラは逆ピッチの18インチ×ピッチ10です。

 静止推力の計算値がわかるサイトがありましたので、上記の数値で計算したところ結果は3.496sfでした。
 とても正確に一致しました。
 使用したサイト「電動ラジコンにズームインの静止推力計算機


     
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